「最近、尿の勢いが弱くなった」「トイレに行ってもスッキリしない」「夜、何度もトイレに起きる」——。
50代を過ぎたあたりから、こうした排尿の悩みが増えてきます。その代表的な原因が、男性特有の病気「前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)」です。
前立腺肥大症は、60代で約6割、70代では約7割の男性に見られるとされる、非常にありふれた病気です。「年のせい」と我慢してしまう方が多いのですが、実は生活の質を大きく落としますし、放置するとまれに深刻な事態を招くこともあります。
この記事では、日々の診療で排尿の相談を受けている医師の立場から、前立腺肥大症の症状セルフチェック・原因・対策・治療までをやさしく解説します。
⚠️ この記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療を行うものではありません。症状が気になる場合は医療機関を受診してください。
前立腺肥大症とは?
前立腺は、男性だけにある、膀胱の出口をぐるりと取り囲むクルミ大の臓器です。尿の通り道(尿道)は、この前立腺の中心を貫いています。
加齢とともに前立腺が大きくなると、内側を通る尿道が圧迫され、尿が出にくくなる——これが前立腺肥大症です。ホースの途中を握って水の勢いが弱まるイメージが近いかもしれません。
症状セルフチェック
前立腺肥大症の症状は、大きく3つのグループに分けられます。当てはまるものがないか、チェックしてみてください。
① 尿が出にくい(排尿の症状)
- 尿の勢いが弱い、途中で途切れる
- 出始めるまで時間がかかる
- お腹に力を入れないと出ない
② トイレが近い(ためる時の症状)
- 日中も夜間もトイレが近い
- 急に強い尿意がきて我慢しづらい
③ 出したあとスッキリしない(排尿後の症状)
- 残尿感がある
- 排尿後にじわっと尿が漏れる
特に②の「トイレが近い・夜間に何度も起きる」は、夜間頻尿や過活動膀胱とも重なります。前立腺肥大症では、これらの症状がセットで起こることがよくあります。
放置するとどうなる?
多くはゆっくり進行しますが、我慢し続けると次のような事態につながることがあります。
- 尿が急にまったく出なくなる(尿閉):強い下腹部の痛みを伴い、緊急で管を入れる処置が必要になります
- 膀胱に尿が残り続け、膀胱炎・尿路感染・膀胱結石を繰り返す
- 進行すると腎臓の機能に影響することも
「まだ我慢できるから」と後回しにするより、早めに相談したほうが、選べる治療の幅も広くなります。
注意:似た症状でも別の病気のことがある
排尿の悩みは前立腺肥大症以外でも起こります。特に次のサインがあるときは、自己判断せず受診してください。
- 血尿が出た(痛みがなくても)→ 膀胱がんなどが隠れていることがあります。詳しくは「痛くない血尿」の解説記事へ
- 急激な症状の悪化、発熱を伴う排尿時痛
また、後述するPSAという検査値は、前立腺肥大症でも前立腺がんでも上がることがあり、この2つを見分けることも受診の大切な目的です。
自分でできる対策
軽症であれば、生活習慣の見直しで症状がやわらぐことがあります。
- 就寝前の水分・アルコールを控える(夜間のトイレ対策)
- カフェイン(コーヒー・緑茶)を摂りすぎない(膀胱への刺激を減らす)
- 市販のかぜ薬・鼻炎薬に注意:一部の成分(抗ヒスタミン薬など)は尿を出にくくし、まれに尿閉の引き金になります。前立腺肥大症の方は服用前に薬剤師に相談を
- 長時間の座りっぱなし・便秘・体の冷えを避ける
ただし、これらはあくまで補助。症状が続くなら、まずは検査を受けるのが近道です。
病院での検査・治療
受診すると、主に次のような検査を行います。いずれも外来で受けられます。
- 問診(症状スコア):症状の重さを点数で客観的に評価します
- 尿検査・超音波(エコー):残っている尿の量や前立腺の大きさを確認
- PSA(採血):前立腺がんが隠れていないかを調べる大切な検査
治療は、症状の程度に応じて段階的に選びます。
- 飲み薬:尿の通り道をゆるめて出やすくする薬や、前立腺そのものを小さくしていく薬などがあります。多くの方はまず薬で改善します
- 手術:薬で不十分な場合や、尿閉を繰り返す場合には、内視鏡やレーザーで通り道を広げる治療が検討されます
「手術」と聞くと身構えてしまいますが、現在は体への負担が少ない方法が主流です。まずは薬から、というケースがほとんどです。
よくある質問
Q. 前立腺肥大症は、前立腺がんになるのですか?
A. 前立腺肥大症そのものが、がんに変わるわけではありません。ただし両方が同時に存在することはあるため、PSAなどで“がんが隠れていないか”を確認します。
Q. 症状が軽ければ放置してよい?
A. 生活に支障がなく、残尿も少なければ、経過を見ることもあります。ただし自己判断は禁物で、一度は検査で状態を確かめておくと安心です。
Q. 何科に行けばいい?
A. 泌尿器科が専門です。健診でPSAの高値を指摘された場合も、泌尿器科で相談できます。
まとめ
- 前立腺肥大症は、加齢とともに前立腺が尿道を圧迫して起こる、中高年男性のありふれた病気
- 症状は「出にくい・近い・スッキリしない」の3タイプ
- 放置すると尿閉・感染・腎機能への影響のリスク。「年のせい」で片づけない
- 血尿やPSA高値は別の病気(がん)のサインのことも——一度は泌尿器科へ
- 多くは飲み薬で改善する。困っているなら受診を
トイレの悩みは、恥ずかしがって我慢するほど生活を狭めてしまいます。気になる方は、ぜひ一度相談してみてください。

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